東京大学公開講座「バランス」
2006年度開講

東京大学公開講座「バランス」

開講にあたって
生源寺 眞一

動画

社会のいろいろな分野で、過度に単純化された言説がもてはやされ、さまざまな要素に配慮した判断が軽視される傾向があります。バランス感覚の後退と言ってよいでしょう。一方、周囲を見渡してみると、身体の不調や不安定な心に悩んでいる仲間が少なくありません。悩みはバランスの失調から来ていることが多いようです。絵画や建築物のような人間の創り出す作品についても、しばしばバランスの美しさが高く評価されます。あるいは、人間の活動による自然生態系の撹乱も、回復能力を超えたバランスの破壊という見地から問題視されています。

バランスは、個としての人間、集団としての社会、人間の創造物、人類を取り巻く環境のいずれの領域においても、大切な役割を果たしています。けれども、そもそもバランスとはいったい何を意味するのでしょうか。それぞれの文脈で使われているバランスは、単一の概念のもとに括れるものでしょうか。しかも、バランスの取れた状態がつねに好ましいというわけでもありません。停滞していた旧来のバランスのほころびから、新しい活力が生み出される例も少なくないはずです。

私たちが日ごろなにげなく口にするバランスという言葉ですが、案外奥行きのあるコンセプトなのです。今回の公開講座では、さまざまな切り口からバランスの本質に迫ってみたいと思います。幸いなことに、東京大学は文系と理系の多くの専門分野の研究者がバランスよく組織された総合大学です。こうした東京大学ならではの企画をエンジョイしていただければ幸いです。 おわりに蛇足をひとこと。英語のバランスには残高あるいはお釣りという意味があります。貴重な時間を割いて聴講された皆さんが、大きなプラスのバランスを手にし、満足されることを願いながら、今回の講座を企画した次第です。

講師紹介
農学生命科学研究科
※所属・役職は登壇当時のものです。

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